宮川香山のここがすごい!
明治を代表する名陶工
江戸末期、京都の陶工家の家に生まれた宮川香山。色絵陶器や磁器の製作に励み、明治維新後は主に海外輸出用の陶磁器の作成に力を注いだ。彼の編み出した「高浮彫(たかうきぼり)」は、海外で当時人気であった薩摩焼の技法をベースとしたもので、薩摩焼の肝というべき金を贅沢に使う代わりに、緻密な彫刻を彫り込むというもの。
文字にすれば簡単に思われるかもしれないが、その彫刻の精密さたるや、まさに極緻の域。見よう見まねで会得できるものなどでは断じてない。言うならば、超絶技巧。細部に至るまで、蟹の爪一つ、南天の粒一つに至るまで「これでもか、これでもか」と技術の粋が惜しみなく織り込まれている。
また、題材も独創的で面白い。先にも書いたが、花瓶にひしと掴まる蟹や、背を丸め、愛くるしい顔でこちらを覗き込む猫など、古今稀な題材が多いのも宮川香山の作風の特徴と言えるだろう。さらに、父から受け継ぎ、独自に昇華した色絵の配色センスは「見事」以外の言葉が出ない。技術が先行する作品は、これは陶磁器のみならず、小説でも映画でも絵画でもそうだが、「凄い!」とは思うが、個人の「技」が強烈過ぎて作品の主題が置いてきぼりになる。つまり、テーマと自己主張のバランスが取れていないせいで、強烈すぎたり、ゴテゴテした感じが残ってしまうわけだが、宮川香山の作品がそうならないのは、超絶技巧の高浮彫に、彼が父から継承した伝統の色絵の技法とが寄り添っているからである。
革新的な作品ならば、いつの時代も出てくる。伝統的な作品もそうだ。だが、革新と伝統が互いに互いを活かしあいながら、見る者の心を奪う作品を作ることが出来るのは、名人だけである。宮川香山が明治を代表する名工であることは間違いない。
文:タロさん
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