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藤田 嗣二(レオナール・フジタ)

藤田 嗣二(レオナール・フジタ)の基本情報

誰もが出し得なかった美しい乳白色の秘密

藤田嗣二は1900年代前半、パリで大好評を博した日本人画家でした。
はじめは留学生としてパリへ渡り、三年で帰国する予定だったのです。
しかし当時のパリの美術表現に触れるにつれ、『全てを捨てて、本場所の土俵で勝負しよう』という気持ちが芽生えます。
そしてパリに定住。
当時の日本人画家としてこれほどまでに本場パリで認められた例は珍しいほどに成功しました。
その魅力は何といっても美しい乳白色。
嗣二は西洋の女性を間近かに見、その透き通るような肌をどう表現するかに腐心しました。
試行錯誤の末にたどり着いたのが『キャンバスに二層の白の下地絵の具を塗り、さらにベビーパウダーの粉を振りかける事』だったのです。
こうして丁寧に作られた下地の上に描かれた女性の肌は、陶器のように滑らかで美しく、神秘的でさえあります。
使う色彩を極限にまで抑え、乳白色をさらに際立たせました。
しかし嗣二の魅力は、実はそれだけではなかったのです。
多くの画家や評論家たちがその技法を知りたがったのは、この乳白色の美しさだけではありません。
一本ずつさえ見分けられそうな、その頭髪の描写もまた当時の西洋絵画の技術にはないものでした。
パリに住み、当時の最先端の美術表現を学んだ嗣二でした。
しかし、やはり脈々と受け継いでいたのは日本人の精神。
良家の子弟であった嗣二は幼少時から北斎などの版画に親しんできました。
日本の画学校では西洋絵画をまなびましたが、日本画の資質も持ち合わせていました。
そんな嗣二にとって、日本の墨とそれ専用の筆を使う事はごく自然な事だったのでしょう。
西洋の技法と東洋の技法を見事に融合させた画面。それが嗣二作品の魅力の秘密だったのでした。
一躍パリで人気者になった嗣二でしたが、その後は歴史の波に翻弄されます。
第一次大戦で帰国。
良かれと思って描いた戦争画でしたが、終戦後にその間違いに気付きました。
その後、責任を感じた嗣二は日本を離れます。アメリカを経由してパリに帰化。
すでに嗣二の名声は無かったパリでの暮らしは最初は楽ではありませんでした。
しかし嗣二の芸術へのひたむきな思いが通じ、やがてパリの人々に受け入れられてゆきます。
嗣二がキリスト教の洗礼を受け『レオナール・フジタ』の名前を得たのは実に70歳を過ぎてからの事。
そして二度と日本の土を踏むことなく、パリで一生を終えたのでした。

文:小椋 恵

乳白色の画家 藤田嗣治

藤田嗣治は、日本人。パリへ画家として渡欧したけれど、さっぱり売れない画家。モディリアーニとも知り合いだった。日本では、ようやく印象派画家を模倣していた時代にパリでは概にシュールレアリスムや素朴派などが居て、ビックリな嗣治だったらしい。

彼は、西洋の画家が真似できない面相筆を生かした線描の絵を描いた。乳白色の肌の表現は当時、企業秘密で誰もアトリエに入れないで嗣治一人で仕上げていた。ようやくサロンで認められた嗣治。モデルをしてくれた女性に400フランを持って逢いにいくと「嗣治、ごめんなさい。コートの下はヌードなの」みんな貧しくてお互い助け合って生きてきたのだ。彼女が文無しの嗣治のモデルをしていたのは、もちろん少しのモデル料。或る時彼女が病気になった時、嗣治は文無しのはずなのに、彼女に薬代を工面した。お互いだものと言って。その彼女にはお金持ちのパトロンが居たのに、嗣治のモデルになってくれたという。

サロンで4枚の絵が認められ、その報酬を持って彼女に会いに行くと前出の台詞。「腕一本」という藤田嗣治のことを書いた本を読んでいて思わず涙。そして、時代の寵児になった嗣治。けれど、ルノワールの赤膚の裸婦が人気絶頂になると、乳白色の嗣治の人気も衰えてきた。で、第二次世界大戦で日本に戻った嗣治の仕事は戦争を肯定する仕事が待っていた。当時の画家には仕事が無く、そうした戦争絵画を描くことを生業とするしかなかった。もともと日本在住の画家も皆、戦争を肯定する絵画を描いていたのだ。なのに、戦後、嗣治だけが描いていたように喧伝され、日本に居られなくなった。そして、アメリカにいた国吉康雄を頼って行くが、仕事は与えられなかった。傷心の嗣治はフランスへ。そこでも亡霊のような扱い。ピカソだけは亡くなるまで交流があったという。

しばらくして嗣治は、フランスに帰化し「レオナール フジタ」と名乗る。

乳白色の秘密は2011年になってようやく解明された。硫酸バリウムを下地にして、炭酸カルシウムと鉛白を1:3。炭酸カルシウムは、油と混ざると少しだけ黄色になる。絵画の下地表層からタルクが検出されたという。その正体は和光堂のシッカロール。

面相筆で細やかに描かれた人物に、裸婦であるその肌に引き寄せられるのは、今も多くの人を魅了すると思う。

文:HANAKOTOBA

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