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エドヴァルド・ムンク

エドヴァルド・ムンクのここがすごい!

言葉に囚われない表現者

エドヴァルド・ムンクは1863年生まれのノルウェーの画家です。
彼の作品で最も有名なのは、「叫び」でしょう。
ムンクの「叫び」は、よくパロディとしても使われており、コミカルな印象が強いですが、ムンクはこの作品について「自然を貫く、けたたましい、終わりのない叫びを聞いた」ことからこの絵を描いたと言っており、実は画中の男が叫んでいるのではないのです。むしろ、大自然の中でムンクが感じ取った「叫び」を、象徴的に表しているものだということです。

ムンクの絵画には、愛や、生と死といった古典的な哲学的テーマがあり、その中でも「叫び」は「生の不安」に振り分けられています。何があるわけでもなく、常に不安にさらされる人の生の危うさをムンクは絵画によって表現したというわけです。

私がムンクの絵画を単純な抽象画なのではなく、言葉という概念を取り払った、五感の世界だと感じたのは、「星月夜」という絵を見てからでした。星月夜の中では、丘やその他の風景がぼんやりとしか見ることが出来ません。しかし私たちが見ているものを木だとか丘だとか認識することができるのは、言語によってそれらを個別に認識しているからです。もしも言語を知らない赤子のままならば、星月夜には世界はムンクの絵のように見えたのかもしれないのです。

このように、ムンクは見たもの、感じたものを、言語に囚われず作品にすることの出来る、とても感受性の強い画家です。ムンクの絵は私に、丸裸の五感をいつも思い出させてくれるのです。

文:まりあんぬ

「叫び」だけじゃないムンクの魅力

ムンクという名前を聞いて、おそらくほとんどの人が最初に思い浮かべるのが「叫び」という作品だと思います。
「ムンク=叫び」とすぐに連想されるほど有名ですが、「叫び」は彼の数多くある作品群の一部にしか過ぎません。
また、「叫び」という作品だけでも彼は生涯で何作品も生み出しています。
よく見かけるのは油絵で描かれた「叫び」かと思いますが、その他にもパステルで2作品、テンペラで1作品、全く同じ構図で作品を残しています。
彼はこの「叫び」以外でも、同じタイトルで同じ構図の作品を技法を変えて制作する事が多いです。
元々油絵での制作を行っていましたが、リトグラフやエッチング、木版画といった技法を習得し、油絵作品の主題をコピーした作品をいくつも残しています。
彼の代表的な作品で一番有名なのはまぎれもなく「叫び」でしょうが、その他には「病める子」「マドンナ」「思春期」なども大変有名です。
また自画像や肖像画も多く手掛けていますし、壁画も手掛けており、様々な分野に興味を持って活動していた画家と言えると思います。
彼の描く人物画はどこか悲しげで、人物の周りを囲む空間をも色を使って描いています。
柔らかく輪郭が丸みを帯びている描き方も彼の特徴で、「叫び」はその特徴が最も顕著に出ている作品とも言えるでしょう。

文:ゆずこ

愛と死を見つめ、描いた作家

ムンクは、生涯を通じて神経的な病気や精神不安に悩まされていました。精神病院に入退院を繰り返していた時期や、病弱な体質もあり、常に病と死の恐怖や不安に付きまとわれていました。その反面、私生活では、数々の女性と浮名を流した愛に生きる人でもありました。しかし、交際している女性と結婚するようなことはせず、生涯独身を通していました。
ムンクの代表作「思春期」や「マドンナ」からもわかるように、女性は、女性であることの喜びを得ると同時に、死へと近づいていくような不気味で不安げな表情をしています。ムンクにとって女性も、愛も、そうだったのかもしれません。生きていることの喜びや未来への希望へと繋がるはずの恋や愛が、自身の不安や狂気を増幅させ、破滅へと向かわせる原因となるものだと思っていたのではないでしょうか。
ムンクの作品は、内なる不安や狂気が見ているものさえも不安にさせる不思議なパワーを秘めています。病気や死を直接的に描いた作品も数多く残しています。自身の病や狂気の不安から死をいつも身近に感じつつ、数多くの女性との恋愛によってさらに自らを死に近づけていくような生き方を、そのまま反映したかのような作品です。ムンクは、愛と死を同時に表現した作家だと思います。

文:あやぱみゅ

エドヴァルド・ムンクの基本情報

経歴

エドヴァルド・ムンク。「叫び」の作者として、あまりにも有名な、ノルウェーの国民的作家です。「叫び」の画面全体から漂ってくる圧倒的な不安感・悲愴さからもわかるとおり、生死の問題や、人間の存在の根源にある孤独感や苦悩、嫉妬心、不安感・絶望・不条理さと向き合い、人物画として表現した作家です。

一方で、恋愛に積極的なプレイボーイという一面もあり、多くの浮き名を流したことでも知られています。人間の陰の面だけでなく、陽の面にも積極的に関わった作家といえます。
しかしながら、多くの作家が辿った末路同様、晩年にはアルコール依存症にかかり、精神病棟への入院を余儀なくされています。良くも悪くも人間の内面と向き合い続け、表現し続けた者の定めなのでしょうか。

ムンクの作品から漂う交雑した感情は、病弱の変人ながらモダンだった作家の人生経験にいろどられた、ヨーロッパの世紀末的絶望感と疑念です。ムンクが作品を描いた時代は、世界が劇的に変化し、信念が疑念に屈して、ステレオタイプのジェンダ−意識が変容し始めた時でした。また母親は早くに死去、軍医だった父親は気難しく狂信的な人間でした。

これらの複雑な家庭環境も、ムンクの世界観に影響を与えているものと思われます。

文:タカハシ404

自然の叫びを聞いた画家

『私のゆりかごを見守っていたのは、病気と狂気と、死の黒い天使たちだった』
エドヴァルド・ムンクは19世紀末にノルウェーで活躍した画家です。
冒頭にあげたのは、後にムンクが自分の幼年期を振り返り残した言葉でした。
こんな言葉を残さなければならないほどに、ムンクの幼年期は悲しみに満ちたものでした。
父は医者で生活にさほど苦しむことありませんでした。
しかし父の診療所のある場所は、いわゆる低所得者の集まる地域。
幼いムンクは早くから貧困、老い、病いといった人生の暗い側面を目にして育ちます。
そして、母と姉の死。母を5歳で、姉を14歳で亡くしています。
成人できた妹も、精神病で入院してムンクが抱えていた死への不安を強めていました。
後にムンクは「母の死」という絵画も残しています。
亡くなった母が横たわるベットを背にして少女が両耳をふさいで立ちすくむという構図。
絵の主人公を少女にした所に、ムンクがいかに母の死を「自分の事として」受け入れられなかったかがうかがえます。
他のムンクの作品もほとんどが絶望や病、死と言った人生の暗部をむき出しに表現したものばかりだったのは、そういった幼年期の経験から来たものだったのでしょう。
ムンクのゆりかごを見守っていた者たちは、生涯彼の生活に付きまとい続けたようです。
そして、ある時運命の瞬間がきます。
ムンクは、ある叫びを耳にしたのです。
「私は自然の大きな叫び声を聞いた。」
と後に書き残しています。
後にムンクは精神病と診断され、病院に入院した時期もありました。
この叫びは病気がゆえの幻聴だったのか、あるいは通常では聞くことができない叫びを聞いてしまったがゆえに精神を病んでしまったのか。そう簡単には結論の出ない問題でしょう。
しかし言えるのは、あの「叫び」という作品はこの苦悩からこそ生まれたという事です。
ムンクは自分個人の幻聴を、万人の心に眠る不安を視覚化させることに成功しました。
そこに、ムンク芸術の真骨頂があったのだと言えるでしょう。
そう、「叫び」の絵の主人公は不安や恐怖が故に叫んでいるのではないのです。
「自然の叫び」から耳を閉ざそうとしている所だったのです。

文:小椋 恵

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