カルロ・クリヴェッリのここがすごい!
ひたすらクールな聖母と八百屋のように並ぶ果物や野菜の対比
ヴェネツィアで生まれ、不義の罪でヴェネツィアを追われた画家カルロ・クリヴェッリ。彼は、画家としての拠点をマルケ州に移し、その地で活躍をしました。
私が西洋美術史に惹かれるようになったきっかけは、ディエゴ・ヴェラスケスの「ラス・メニーナス」とクリヴェッリの「マグダラのマリア」でした。残念ながら、クリヴェッリの「マグダラのマリア」は現在、オランダにあります。マルケ州に多くの作品を残したクリヴェッリですが、なぜかナポレオンの義理の息子ウージェーヌ・ド・ボアルネがある時期にミラノに運び込んだ経緯があり、現在はミラノのブレラ美術館に多く所蔵されています。
クリヴェッリは、1430年頃に生まれたルネサンスの画家ですが、彼の作品の特徴はひたすらクールで謹厳な聖母像です。ほかのルネサンスのが形が、人間性を追求して温かな母性をまとった聖母を描いていたにもかかわらず、クリヴェッリの描く聖母は一貫して聖牲のみを漂わせています。それと対比をなすのが、神々しい聖母子像の周りにこれでもかと描かれた果物や野菜で、当時のインテリたちはこうした静物を描くことで「イエスの受難」や「聖母マリアの純潔」を読み取ったのです。色白で端正な顔立ちの聖母は、当時のモードに忠実に豪奢な衣装と宝飾品を身につけていますが、その周りを彩る野菜や果物はなにやらユーモラスです。
そしてもう一つ、クリヴェッリの特徴と言えるのが「長い指」。非現実的までに細く長い指は、おそらく作品の多くが祭壇がとして描かれ、遠くから眺めることを考慮してクリヴェッリが描いたと推察されますが、これがまた非常に典雅で、クリヴェッリの作品の「優雅さ」を特徴付ける要因になっています。マルケ州は、遠近法を愛したピエロ・デッラ・フランチェスカやパオロ・ウッチェッリが活躍した地ですので、クリヴェッリもそれに忠実に細やかな遠近法を用いた作品が多いのですが、重厚で謹厳な作品の所々にちりばめられた、おそらく本人は意識していなかったであろう「ユーモア」が、現代の私たちの目を楽しませてくれます。
クールな作風と、不義密通を犯して故国を追われたクリヴェッリ自身の対照も非常に興味深いところですが、彼の人生はまだ謎に包まれています。現代にも通じるモダンな画風は、収集家たちの垂涎の的になり、クリヴェッリが制作した祭壇画の多くは分解され世界各地の美術館に散ってしまいました。イタリアの美術史家ロベルト・ロンギは、散逸してしまったクリヴェッリの祭壇画の再構成を試みています。繊細さと大胆が調和するクリヴェッリの作品は、見れば見るほど惹きこまれる不思議な魅力を持っています。
文:cucciola
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