アンドリュー・ワイエスのここがすごい!
孤独を愛し、故郷の素朴な人物を長く描き続けた生涯。
繊細な素描で田舎の風景と素朴な人物の美を描くアンドリュー・ワイエスは、
その生い立ちを知るにつけ、
必然的に孤独であることに慣れ、むしろその状況を愛し、絵画創作の道へいざなわれたのではないかとさえ思われるのです。
幼い頃から虚弱であった彼は、学校には通わず家庭教師に読み書きを、
そして彼の道である絵は挿絵画家である父から学び、ほぼ独学で自らの
人生、絵画を創り上げていったのでした。
このような生い立ちは、
往々にして、作家や、アーティスト、発明家などには
幸運であるかもしれません。何故なら既存の教えに染まることなく、また自ら考える、感じることに制限がないからです。
彼が展開した孤独な内部世界の表出であったり、素朴さへの探究に没頭し続ける中に、
病んだモチーフがひとつも無く、むしろ甘やかな郷愁に満ちていて観る者の共感を誘うのは、そのあたりの生い立ちが関係しているのではないでしょうか。
故郷の村、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のチャッズフォードと、別荘のあるメーン州クッシング以外の場所にはほとんど出ることも無く、
そこに生きる人々、近くに住むクリスティーナを30年、近くの農場で働いていたヘルガを15年にわたって描き続けたことは驚きに値するほどで、
ワイエス独自の美学がそこにあり、画家としての大きな個性となっています。
クリスティーナには足が不自由ながら自らの力で力強く生きている姿に、ヘルガには飾り気のない人間そのもの、本来の女性性に動かされ、その想いを刻々と刻み込むように描きつづけました。
「クリスティーナの世界」そして「ヘルガ」の一連の連作は今や彼の代名詞なっています。
ことヘルガに関しては240余枚もの作品を描いたことを彼の妻やヘルガの夫に隠していたため、ゴシップにもなりました。
しかし画家としてのモデルやモチーフへの愛というのは、俗世的に何かを限定できるようなものではなく、あらゆる感情も、どこまでもひろがる静けさも、全てを内包しているものであるのでしょう。
そのヘルガに、そしてクリスティーナに、ワイエス自身の孤独で甘美な心象風景が重ねられて完成した彼の絵画は、
夢の中で誰もが出逢うような懐かしい故郷と、そこに射し込む遠い光とを感じさせずにいられないのです。
文:ゆすらうめ
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