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メアリー・カサットのここがすごい!
女性画家メアリー・カサットが母子に送る、暖かなまなざし。
カサットは印象派の画家として活躍した一人の女性です。時代とともにモチーフや表現方法を変えていった彼女ですが、まず第一にとてつもないのがそのデッサン力です。ジャポニズムに影響されて制作した作品「沐浴する女性」ではあのドガに「女がこんなにうまく素描できるなんて認めたくない!」とまで言わしめるほど、なだらかな曲線を描く白い背中が優美です。画力は線の一本一本に宿るもの、さらりと描かれたように見える銅版画もじっくりと見てみればそれ以外の線の運びは考えられません。
彼女の描写の確かさは線だけでなく塗りからも伺うことができます。彼女は油彩や銅版画の他にもパステルの作品を数多く残しています。ドガの影響を受けて描かれたカサットのパステル画は明るくてはつらつとした色彩が美しく、特に内側から透けるようなピンクの頬等肌の表現が見事なのです。
活躍の初期から一貫して画材やテーマによらずすばらしい作品を作り続けていた彼女ですが、その真価は女性や子供を描く際により発揮されました。先日行われたカサット展で目玉とされていた作品「眠たい子供を沐浴させる母親」もそんな作品の一つです。この作品の私が好きなところは、子供が可愛らしい表情をしていないところです。お湯で赤くなった母の手にやさしく世話してもらっている子供のとろん脱力した姿や手の位置などある種のふてぶてしさすら感じてしまいます。
もう一つ私が気に入っている母子の作品が「母の愛撫」という一枚。自然の中で母親に戯れ付く子供の姿はとても心穏やかになるのですが、ふと母親の手を見ると子供の腕をワシ掴んでいます。母親の表情はよく見えませんがきっと不格好に歪んでいるはず。子供はやはりふてぶてしい表情に見えます。
これらの作品から私が感じるのは、カサットにとって子供というモチーフがとても身近で実感のこもった存在だったということです。実際に子育てをすれば、子供というのは可愛いだけでなくときには愚図ったりイタズラしたり不機嫌になったりするもので、それに対する母親のまなざしはいつでも絵の中で理想化されるような笑顔ではありません。カサットの描く子供が持っているのは可愛さではなく愛嬌でした。ふてぶてしい顔も、イタズラする姿も愛情を受けて健やかに育つ子供の記録として残したい。そしてそんな子供に対する母親の愛情を画面に表現したい。豊かな色彩と洗練された線で描かれた作品を前にした時、家族をモデルにすることも多かったカサットの、モデルひとり一人に対する暖かなまなざしが感じられると思います。
文:みと
メアリー・カサットの基本情報
印象派の普及や女性の参政権にも貢献した画家
メアリー・カサットはアメリカ出身の印象派の画家。女性ながらに画家として活躍しました。また、アメリカに印象派を広めたり、女性の参政権運動に関わったりしたことでも知られています。
カサットはアメリカの裕福な家庭に生まれ、世界の名画に触れて育ちました。その中で、画家になろうと決心します。しかし、当時は女性は早く結婚し、家庭に入ることが求められていた時代。家族は猛反対します。
それでもカサットは、画家になるべくパリに渡ります。画家のアトリエやルーブル美術館などで絵画の勉強をしますが、普仏戦争が勃発。アメリカに帰国せざるをえなくなります。反対する家族の元での窮屈な生活ののち、再びヨーロッパへ。
ヨーロッパの主な美術館を巡って絵を学び、パリに到着します。そこで、印象派のエドガー・ドガと知り合い、ドガの勧めで印象派の展覧会に参加するようになります。
印象派風に光を描きつつも、古典的にも感じられるくっきりとした描写がカサットの作品の特徴です。母と子などの日常的な情景を、あたたかくも冷静な目で描きました。
母と子を多く描いたカサットですが、カサット自身は結婚も出産もしませんでした。カサットにとっては作品が子供だったのかもしれません。
晩年は、友人に印象派の作品の購入を勧めてアメリカに印象派を広めたり、女性の参政権運動に関わったり、と画家以外の活動でも活躍しました。
文:sophia
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