ウジェーヌ・フロマンタンの作品紹介
「ナイルを渡る」―北アフリカに魅せられた小説家・画家
数年前の大エルミタージュ展で好きな画家のルノアールより、この小さめの作品の前で足が自然と止まってしまい、しばらく佇んでしまいました。
でも自分でこの作品のどこに魅かれているのかはわからない。
特に砂漠やキャラバンに興味があるわけでも無いし、作品のモチーフとしても別段珍しくもなんともない。
なのになぜ?この場から離れられず立ち止まる私。それを確かめたくて、さらに佇んでいました。
そうだ!好きな本の『アルケミスト』パウロ・コエーリョ著の中にキャラバンで砂漠を渡るシーンがある。
あれに影響されたのかしら?
そうかもしれない。
けれど、なんとなくこの作品は他の作品とはちがう。
それは『緊張感』が漂っているからだ。
砂漠という厳しい自然。
ときには、盗賊に狙われて命を落とすこともあるかもしれない。
そういうのを感じているのかな。
ふと やっと 作品横の作家名などの白の小さいプレートに目が行きました。
そこにはふつう『キャンバス』と表記されているところに『板』と書かれているのに気がつきました。
心の中で、(板だ!キャンバスじゃない!板だ!だから緊張感を感じたんだ。)
キャンバスで絵を描いたことが無い人でもイメージできると思いますが、キャンバスは木枠にキャンバス地を張付けた物なので表面に弾力があり、その性質が作品に丸みを帯びさせています。
板の場合は、もちろん表面にほぼ弾力は無く絵筆やペインティングナイフを使用した時、画面の反発が無い性質が、鑑賞する者に微妙にある種の緊張感を与えたのかもしれません。
どちらにしても私の感じたこの作品、独特の『緊張感』の理由の真実は、実証することはできません。
『板』に反応したのは確実ですが、当時の私もまた(自分では気づいていなくても)内面的には、砂漠を渡るほど厳しい精神環境を歩き続けていたのかもしれません。
『極限状況に置かれた人間にとって、絵画はたとえ名作であっても、パンや食料にはかなわない』とある有名人が発言していました。
たしかにそのとおりだと思います。
けれども例えば、死の淵にいるような極限状態に置かれた人の『救い』となるのは、やはりパンよりも人の心に訴えかける絵画作品なのではないでしょうか?
ちなみに作者 ウジェーヌ・フロマンタンは、フランスの小説家であり画家であり、かのプルーストに影響を与えた小説家でもありました。
文:松本タマキ
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